ツスクル雑記帳(仮)

DQX(ドラクエ10)の記事を中心に雑多に書いています。

小話

昔、ある所に
好奇心の旺盛な青年がいた。

彼は、見るもの全てに興味があって
未知のものへの興味も格段であった。

───この世の全てを知りたい。

そう考える青年にとっても
それは途方もなく、実現など出来ない
「叶わぬ夢」なのは知っていた。

知識と経験を積むうちに
見えるものが増え、
夢に近づくと同時に
夢が遠くなっていった。

───全てを知るなど不可能と知る。

当然だった。


ある時、彼は人の為と思い
自分の知識を人に与えた。

彼は見えぬ所の事態を
まるで見えているかのように
人々の知らぬ事、遠い地の話、
これから起きるであろう事…
様々な事を話した。

人は驚き、千里眼だと囃し立てた。
「では、これは?」「次はこれを…」
一人一人は興味本位や、
真剣な悩みだったかもしれない。

多数の人に対して、受けるのは彼一人。

───俺は全てを知れないが、
───全てが見えているのか。

「増長」
彼は知りうる事が出来ないものすら
忘れてしまい、全てを見通せるつもりに
なっていた。

彼は歳を老い
その目に写るものだけが世界と
盲信していた。
全てを知ることは出来なくとも
世界の全てが見えていれば良いと
考える様になっていった。


そして、彼は死ぬ。
寿命すら知っていた彼が死ぬのは、
全てを見えていたはずの世界で
見えない毒で暗殺される。

───この毒は知っている。
───なぜ?
───いや、知らない。
───どうやって?
───ありえない。

───そうか、見えていなかったのか。

彼は死ぬ間際になって
全てを見通すことなど出来ないと
「知る」事が出来た。


目を閉じ、暗い世界を覗く。
見た事のない暗闇。
二度と光など差し込まない世界。

───あぁ、まだまだ知りたい事が
───残っていたんだがなぁ。

彼は、忘れている。
近くで泣きながら解毒剤を用意している
人達の事を。



また、見えていない。